演劇芸術家(卵)の修行日記

芸術としての人間模様とコミュニケーションについて。

君が人生の時

今春やる芝居の作家、最も敬愛する劇作家ウィリアム・サローヤンの戯曲「君が人生の時」の前文を記す。

 

君が人生の時に、生きよ。そうすれば、やがて、その善き時の中に、君の人生にとりまた君の人生の触れる他の如何なる人生にとりても醜悪なるもの、死なるものは影をひそめていくであろう。如何なる場所にも善なるものを求めよ。そして、それを発見したならば、その隠れたる場所より明るみに出し、それを自由な、自ら恥じざるものとせよ。物質や肉体にはなるべく重きをおくな。そうしたものは必ず死すべきものであり、消滅すべきものなのであるから。総ての物事に輝けるものを、腐敗を超越したるものを発見せよ。如何なる人間の裡にも美徳を見出し、それを助長してやれ。それは世の中の汚辱や恐怖の為に人にも気づかれぬような所に、悲しみの中に、余儀なく埋もれていたかもしれないのだ。分かりきったことは無視するがよい。それは明敏なる眼、温情ある心には値しないものだから。如何なる人にも劣等感を感じてはならぬ。また如何なる人にも優越感を抱いてはならぬ。この世の人間は誰だって皆君自身のヴァリエーションに過ぎないのだということをよく銘記せよ。如何なる人の罪も同時に君自身の罪に他ならず、また如何なる人の潔白も決して君自身に無関係なるものとは云えぬ。悪徳と不遜はこれを侮蔑せよ。しかし、悪徳と不遜の人間を侮蔑してはならぬ。これは、よく理解すべし。親切で温情ある人間たることを恥ずるなかれ。しかし、もし君が人生の時に、人を殺すべき時が来たとすれば、殺すべし。決して悔いることなかれ。君が人生の時に生きよ。そうすれば、その不可思議なる時の中に、君は世の悲惨や不幸を増すことなく、その限りなき喜悦と神秘に微笑を投げかけるであろう。