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演劇芸術家(卵)の修行日記

芸術としての人間模様とコミュニケーションについて。

ロシア凱旋公演の終わり、新しい始まり

先月の36歳の誕生日、申年の年男として、新たな一年を思ったとき、本当にうつくしいものを見続けていたいな、と思った。

その10日後、ロシア演劇祭への出典のためにロシアへ渡り、自身としては初の海外公演、劇団としては初の国際演劇祭への参加、そこからの怒濤の日々。そして昨晩、ロシアからの凱旋公演、ドストエフスキー作「idiot~白痴より~」の公演を終え、劇団として未来への試金石であったプロジェクトにピリオドを打った。

劇団として、集団創造としては想像を遥かに上回る大成功だったけど、一人の俳優としては悔しい、苦虫を噛み潰す経験もした。その一つが、凱旋公演の前日の稽古であまりにも自分の演技が悪く、急遽降板になったことだった。

最初は、チームが勝つためなんだから仕方ないと納得してたのだけど、その夜寝られず結局朝まで寝付けず、「あ、悔しいのか」と気づいた。

とはいえ公演を成功させること以上に大事なことはないし、少し仮眠し、自転車で渋谷の劇場へ向かった。

一日限りの公演なので早朝に小屋入りし、急ピッチでセットを組み、初めての劇場で音響/照明を数時間かけてチェックし、衣装も程々にリハーサルをし、そして僕は裏方・黒子として持ち場についた。あくせくしながら舞台セットの裏にスタンバイした瞬間に、「あれ?」と妙な違和感を覚えた。

「なんでこんなとこにいるんだっけ?」

観客の溢れる大劇場で俳優ではない立場で開演を待ちながら、セットの裏で順序に従って作業を進め、舞台に立つ前のプレッシャーも不安も恐怖もなくその安全な領域で、「あれ?なにやってんだ?」という感情が湧き上がった。そして気づく。ああ、これは自分が選んだこと、自分が望んだ結果なのだ。僕は舞台に立ちたくなかった。怖かった、努力してこなかった、誤魔化し誤摩化し、いまここにいるのだ。

今にも幕が上がりそうなときに、暗闇の中ひとりうなだれ、これはまずい、どうしよう、開演までに気持ちを整理しないと。大きく息を吐いて、自分に問う。

「今本当に大事なことは?」

答えはすぐに出た。
公演の成功。観客の魂に届く舞台を全員でつくること、それが彼や彼女の心、明日からの生活に何らかの影響を及ぼし、そんな一つ一つがつながってこの世界がより良い場所になること。よし!

そして幕が開く。圧倒された。劇団として過去最大の劇場空間で、黒子である自分の数メートル先で、俳優たちは皆自分の人生を生きていた。谷川俊太郎さんの詩「生きる」みたいに生きていた。儚くて美しい光景だった。

そして一瞬のような三時間の舞台が終演、カーテンコール、一階席、二階席から降り注ぐ拍手。そして特別に演出家アニシモフさんからの挨拶があった。

「この作品はロシア国際演劇祭に招聘されそのために演出し直した舞台で、その凱旋公演として上演しました。そしてロシアで公演したもう一つの作品、『古事記』を観たロシアの著名な映画監督が終演後にポスターにメッセージを書いてくれました。皆様への敬意をこめて、その言葉を贈ります。『偉大な民族の偉大な芸術』。皆さん、今日はありがとうございました。」

創設から16年の長い時をかけて、有機野菜のようにじっくりゆっくりと育てられてきた俳優と舞台、その集合体としての劇団、その一つの到達点としての舞台。一番後入りの僕の知らない時代、劇団設立当初は1~2人しか観客が来ないこともあったらしく、観客より出演者の方が数が多いこともざらだったそう。今日の公演もつい数日前まで100人ちょっとしか予約がなかったにも関わらず、幕を開けてみれば劇場を埋め尽くした4~500人の観客とその拍手。

今年3月に上演したブレヒト作「コーカサスの白墨の輪」のある台詞を思い出す。

「奇跡ってのはな、信じる者にだけ訪れるんだよ。」

ほんとうに、奇跡のような夜だった。三十歳を過ぎて巡り会ったこの道で、迷いながらつまづきながら歩んできたこの道で、こんな夜があったことを、いつか道を逸れそうになったときにきっと思い出せると思う。

ロシアで、日本で、劇場に足を運んでくれた観客の皆様、公演を支えてくれた劇場の皆様、ロシア公演プロジェクトを支援して下さったパトロン/スポンサーの皆様、あとドストエフスキー様、八百万の神々の皆様、ありがとうございました。自分の目的地目指して、亀みたいに地道にがんばります。 

 

 

 

蛇足ながらもう一つの奇跡を。
凱旋公演の前日のこと、劇団の先輩の仕事先レストランにロシア人のお客さんが来て、接客時、日本に何しに来たのですか?と尋ねたのだそう。すると、こんな答えが返ってきたそうです。

「先週モスクワで、日本の劇団の”古事記”の公演を観て感動し、いったいどんな国なんだろうとこの目で見たくて来たんです。」

 

 

新しい何かが始まる音。

 

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