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演劇芸術家(卵)の修行日記

芸術としての人間模様とコミュニケーションについて。

盆と正月と誕生日とクリスマスが同時にやってきた!

めでたい!今宵は本当にめでたい!
何がそんなにめでたいか?


2011年、僕が東京ノーヴイ・レパートリーシアターに入団し、アニシモフ氏に師事し始めてそれから5年、今日初めて後輩ができたのです。

 

うちの劇団はそうそう簡単に俳優を採らないのだけど、本当に才能のある青年が二人入ってきました。

 

しかもそのうち一人は僕が東京にステイするときにいつも居候させてもらってる友達の瀧山真太郎(通称:文豪)で、そんな人間が同じ志を共にする場に来てくれて、僕は本当に、こんなに嬉しいのはいつ以来だ?!というくらい嬉しいのです。嬉しいなんて感情、久しぶりに心から感じています。

 

僕はかれこれ5年も劇団のいちばん若手で、しかも上の先輩となると10年先輩、みたいな人ばかりなので、稽古の合間にメシ食いにいくのでも気軽に誘える人いなくて、正直とても寂しくて孤独だったのだけど、これからはいつでも思いを語り合える、哀しいときは一緒に哀しめる、喜びは百倍分かち合える仲間ができました。

 

 

 

 

彼との出会いは前職の営業仕事の現場で、新人としてそこに入ってきた朝のことは今でも鮮明に覚えている。

 

その職場では新人にあだ名をつけるのが慣例とになってて、しかも天才的にあだ名をつけるのが上手い通称ダイナマイトというプロレス好きでロックンローラーのマネージャーがいて、で、彼につけられた名前が「文豪」だった。

 

「新人を紹介します、文豪!」

 

と聞かされた瞬間、

 

(言い得て妙!!IPPON!!)

 

と僕は心の中で爆笑したのを今でも覚えている。それくらい、太宰治芥川龍之介か、みたいな風情をしている青白い顔をした青年だった。

 

幸か不幸かその営業会社はその一年後解散になるのだけどその直前、彼と帰り道が一緒で、東京は世田谷、梅が丘にある公園で、ひょんなことから当時僕が撮影して編集した、うちの劇団の演劇学校「スタニスラフスキー・アカデミー」の、アニシモフさんの講義風景をiphoneで見せたら、

 

「こうじさん、おれ、ここ入ります」

 

となんと最初の2分観て彼は即決でアカデミーに入ったのでした。

 

そして一年後。

 

その年のアカデミーの卒業公園で、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」をやることになり、当時僕は息子が産まれたばかりで、仕事と家事と育児に追われる日々の中とても観劇しに行く余裕はなかったのだけど、奇跡的にパートナーが「行っておいで」と言ってくれて、観に行った。

 

付け加えると、当時の僕はけっこう人生のどん底というか、人生最悪と言ってもいい精神状態で、絶望とまではいかないまでも自分という人間の尊厳を相当失っていて、自分なんか30歳くらいで死んでたら人様に迷惑かけずに済んだのにと精神的に自傷する日々で、そんな心持ちの中、下北沢のホームシアターに足を運んだ。

 

ちなみに、卒業公演というのは、言ってみれば新米たちの発表会みたいなもんで、あくまでも演じる俳優達の実践の、訓練の延長線上にあるものだから、観る側としては、温かい目で、応援する気持ちで観るもので、僕もそんな気持ちで後輩の文豪を応援するために劇場に入った。

 

 

そこで観たものよ。そこで観た人間よ。

 


幕が開いて、彼が舞台に登場した瞬間、

「え....!えーーーー!」

と、驚きと共に僕はえも言われぬ喜びが全身にこみ上げた。彼は僕が知っている彼ではなく、ワーニャ伯父さん(主役)としてそこに生きていて、そのぶっきらぼうで不器用で猥雑で低俗な目、歩き方、素行、それら全部がなんともいえない人間臭さを醸し出していて、僕は松田優作ばりに「なんじゃこりゃー!」とわなわな驚愕していた。

 

チェーホフ劇ってのはそもそもスローな演出が多いのだけど、新米の俳優達が焦ってカタチだけにならないようにと、ゆっくり目の前の相手役とちゃんと対話できるようにと、さらにさらにスローテンポな演出の芝居で、四幕全体で四時間半くらいの長丁場だった。けど、まったく長いと感じなかった。

 

そこでちょっとした事件。

 

四幕が始まる直前、開くはずのない劇場の扉が開いて、そこに作家の田口ランディさんが入ってきた。

 

「アニシモフさんいますかー?」

 

ランディさんはアニシモフさんと大の仲良しで、たまたま下北沢に来て、アニシモフさんに挨拶でもしてこうと劇場に立ち寄ってくれたのだけど、そこで偶然、卒業公演をしていたので観るハメになったのだった。そこでランディさんも僕と同じく驚愕する。ブログにも感想を書いている。 

「演劇の素人が、すごいことをやってのけていた」

そんなことを書いていた。
そして感銘を受けたランディさんは、長年の夢だった(らしい)女優をやるために、翌年、アカデミーに生徒として(周りには身分を隠して)入学することになる。

 

僕も客席で芝居を見終わって、そもそも後輩を応援しにきた僕は、彼からとてつもないエネルギー、生きる勇気をもらったのだった。救われた、といってもいいくらいのものをもらった。

 

物語の最後、ワーニャの姪のソーニャが、ワーニャに言う。

 

「生きていかなきゃ、生きていきましょう」

 

セリフ、ちょっと違うかもだけど、僕に伝わっている戯曲のメッセージとしてそんなものを僕は確かに受けとった。

 

その彼はアニシモフさんにも見初められて、劇団にスカウトされていたのだけどちょっと迷っていて二の足を踏んでいたのだけど、先日行われたうちの劇団のロシア凱旋公演、ドストエフスキー「白痴」を観て衝撃を受け、入団を決めたのだった。

 

で、今日、正式に調印もして、入団決定。めでたい。これはめでたい。全人類的にめでたい。太陽系も銀河系も超えて全宇宙的にめでたい。

 

 

「どうせやるなら、良い意味で野心を持ってたいっす」

と文豪は言う。

「Boys be ambitious、やな」

とかっこつけて僕が言うと、

「なんすか、それ?」

と言われ、

「少年よ、大志を抱け、や」

と、かっこわるくも翻訳した。

 

 


少年よ、大志を抱け。

青年よ、書を捨て街へ出よ。

 

 

 

 


音が聴こえる

何かの足音が聴こえる

タッタッタッタッタ

リズミカルな小気味よいその足音

こっちに迫ってくるような

あっちに遠ざかっていくような

心臓の音にも似たその音

チクタク チクタク

時計の針とともに

その音は宙に刻まれる

 

ラララ

ラララ

小さな女の子のハミング

朝を告げる鳥の声

小川のせせらぎ

葉を揺らす風の声

 

 

澄んだ音が聴こえる

遥か遠くから

高く遠くまで

誰にも聴こえず確かに聴こえるその音

その音が僕を促進する

自分では賄いきれない弱々しい僕を

立ち上がれ立ち上がれと勇気づける

 

 

 

 

 

いやーーーー!

めでたい!

とにかくめでたいぞ!!

盆と正月とクリスマスと誕生日と文豪が同時にやってきたぞーーー!!!

 

 


只今深夜2:22、

彼はいま僕の目の前の磨りガラスの奥でウンコをしている。

こうじさんすいません、紙をとってください、と言っている。

 

 

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